4エレメントとエルサ
4エレメント(四元素)
私はFROZEN2に頻繁に登場するひし形の結晶は4エレメント(四元素)を表しているのではないかと考えています。
4エレメント(四元素)とは、世界の物質が「火」「空気(風)」「水」「土」の4つの元素から構成されているとする概念です。
四つの元素は具体的な物体というわけではなく、物質の状態を示します。
たとえば「プラトンの輪」と呼ばれる周期的循環現象では、「火」は凝結すると「空気(風)」に、「空気(風)」は液化すると「水」に、「水」は固化すると「土」になり、「土」が昇華すると「火」になるとされます。(逆方向の変化もあります。)
四元素はエンペドクレス、プラトン、アリストテレスなどの哲学者が唱えたほか、インドや中国をはじめ西洋以外の国々でも類似した考え方が存在しますが、私はFROZEN2がこのうちの誰の、またはどこ地域の四元素説を基盤としているかということは重要視していません。
おそらく世界の均衡を脅かしてしまうような秘密がエルサの中にあるということを描くために4エレメント(四元素)を題材にしたのであって、実際にこの四元素説の真偽を解明することは目的ではないでしょう。
4つの結晶は、それぞれ微妙に異なる色をしており、異なる文様が刻まれています。
この文様はルーン文字ではないかといわれていますが、私はルーン文字以外にも4エレメントのシンボルも参考にされていると考えています。
錬金術における四元素のシンボル
4エレメントのシンボルを解説する図
馬(NOKK)は「水」、木の葉と曲線は「空気(風)」、巨人(ゴーレム)は「土」を表していると考えられます。
海面を走るエルサの足元が凍る際、色が微妙に異なるように見えます。
これは4エレメントの色に対応しているように見えます。
エルサの両手から発せられ、霧散した「力」が結晶化します。
これらの場面から、4つのエレメントはエルサの中から発せられているように見えます。
また、トレーラーの映像では「火」の描かれ方がその他のエレメントとは異なる印象を受けます。
単に今回の映像に出てこないだけかもしれませんが、水→土→風と魔法を変化させながらエルサが楽しく歌っているように見える場面で、「火」は確認できません。
「火」らしきものが登場するときは、それがエルサとオラフを取り囲んでいたり、森の木々に燃え移り人々が慌てているなど、あまり好ましい場面ではないようです。
「火」は他の3エレメントよりも上位に位置していると言われます。
4つの性質のなかで最も軽く微細なため、生成や消滅が終焉する先のエレメントとされているからです。
また「火」と「水」は対照的なエレメントであると同時に相補的な関係にあり、互いに引き合い結合することによってものを生み出すことができるとされています。
エルサにとって「火」のエレメントは他の3つのエレメントよりもコントロールしにくいものなのかもしれません。
エルサの魔法は雪や氷なのでは?と思われるかもしれませんが、先述したように4エレメントは物体そのものではなく、物質に状態(性質)を与えるものです。
エルサは噴水の水を凍らせることができます。
また空気中から雪を生み出すこともできます。
これは流動性のあるものや揮発性のあるものを固定化させていると言い換えることもできるかもしれません。
その逆が可能なら、固体を液化したり気化したりすることもできるはずです。
四元素の働きは神が定めた規則に拠っているとされています。
世界とは、今この瞬間の、あらゆる物資の「状態」に過ぎないのです。
(これは極めて仏教的な考えともいえます。結局のところ全ての宗教は同じ事象を解説しているに過ぎないのだと私は考えています。)
4エレメントをコントロールできるということは、この世界の在り方を決定するということなのです。
「愛」がエレメントを結合させる
私が4つの結晶が4エレメントを表すのではないかと考える理由の一つに、石柱のデザインがあります。
下記の画像はSF映画「フィフス・エレメント」に登場する4エレメントの石柱と「FROZEN2」で描かれる石柱の比較画像です。
エレメントが「石柱」の形をしていることや、根元に平行な線が彫られているところが同じです。
私は、4エレメントがこの世界に石柱として実在しているということを言いたいわけではありません。
映画や小説などの創作活動・表現活動において、それが「4エレメントを表している」と観客に伝わることが重要なため、このような共通するデザインが用いられているのだと考えています。
エレメントの混合と分解を可能にする動的な力として、元素を結合させるものが「愛」であり、分解させるものが「憎」であるという考えがあります。
エンペドクレスによると、宇宙のプロセスは「愛の完全支配期→憎の伸長期→憎の完全支配期→愛の伸長期」の四つの段階が円環的な周期でめぐっており、二つの伸長期には、4元素は可視的な事象・生物となって生成し、消滅するとされています。
もしかすると我々はこのどちらかの伸長期におり、過渡期の「導き」としてエルサがいるのかもしれません。
個人的には今が愛の伸長期であることを願っていますし、そう感じています。
話がそれましたが、この「愛」がFROZEN2に関わってくるか考えてみます。
一作目のキーワードは「True Love(真実の愛)」でした。
「愛」というキーワードにエルサが深く納得した様子を示すと、力の制御が利くようになり、大解氷に繋がります。
「愛」によりエレメント同士を結合させ、安定させることができたのかもしれません。
また、ラストシーンではエルサがアナに「氷のスケート靴」を与えますが、これはアンデルセンの原作「雪の女王」の一場面でもあります。
作中のカイは寒さを感じることがありません。
原作的には、エルサがカイで、アナがゲルダです。
題名でもある雪の女王についてはあまり描写がなく、雪の女王の意図も不明なままです。
FROZENは原作の原型がほとんどないと言われることもありますが、私は重要な点は原作に沿って作られているのではないかと考えています。
以下は、個人的に原作と共通すると考えている点です。
あるとき天から「悪魔の鏡」が落ちてきてその破片がカイの目と心臓に刺さり、カイの心が凍ってしまいます。
雪の女王に出会ったカイは、家族やゲルダのことも記憶から消えてしまい、女王と共にゲルダのもとを去ってしまいます。
雪の女王の宮殿にいるカイは、女王の接吻により寒さを吸い取られてしまっているため、寒さを感じることがありません。
その状態で、カイは雪の女王から「永遠」という言葉を作り出すように言われます。
その言葉を作ることができれば、カイは「自由」になれると言うのです。
そしてカイが「永遠」という言葉をつくることができたなら「世界全体とスケート靴」を与えてくれる、と言いました。
原作での雪の女王は、カイに何かを強制したり、宮殿を出て行くカイを引き止めたりはしません。
「悪魔の鏡」も雪の女王の持ち物ではなく、あくまでも雪の女王はカイとゲルダの行動を傍観しているだけで、直接的な関与はしないのです。
FROZENでは最後に「雪の女王からスケート靴が与えられた」ため、カイ(エルサ)は「自由」となり、「永遠」を作り出すことができるようになった結果、「世界全体」を与えられたとも捉えることができます。
このためブロードウェイ版ではスケート靴を与えるシーンがない代わりに「Elsa,you are FREE.」とアナが言うのだと私は考えています。
「愛」を得たことでエルサは内なる4エレメントを結合させることが可能になったのでしょうか?
だとしたら、それは果たしていいことなのでしょうか。
それとも、新たな危機を招いてしまうことになるのでしょうか。
トレーラーの最後に登場するNOVEMBERの文字は、向かって右側から不自然にフェードアウトしていき、意図的に「LOVE」の文字が残るような演出がされているようにも思えます。(THIS FALLは均一にフェードアウトします。)
エルサはフィフス・エレメントか
また4エレメントがテーマとして用いられる場合、「フィフス・エレメント」と呼ばれる第五元素が登場することがあります。
4エレメントが月下界(地上)の物質を構成するのに対し、天上界(宇宙)はこの第五元素が構成しているという考えです。
個人的に、第五元素とはなにか、というのは非常に難しい話だと思っています。
「プリマ・マテリア(第一質料)」と同一視されることがありますが、これを考えるにはプラトンの「イデア」やアリストテレスの「エイドス」と「ヒュレー」を考える必要があるからです。
しかし冒頭で述べたように、今回は誰の四元素説が元になっているかを特定したり、第五元素の証明をすることは重要ではありません。
FROZEN2を観終わった後、これらのことを詳しく落とし込まなくてはならなくなったら時は、そうしましょう。
きっとその必要が出てくるような話であるなら、映画そのものがその理解を助ける役割をしてくれるはずですから。
今回は映画のあらすじを予想するために、フィフス・エレメント(第五元素)が物語に登場するか、また、エルサ自身がフィフス・エレメントの可能性があるかを考えます。
天界を満たす「アイテール」
古代ギリシャにおいて「アイテール」は「輝く空気の上層」「雲や月の領域」「ゼウスの支配する領域」を表す言葉として用いられ、これに対し下層の空気は「アーエール」と呼ばれていました。
このアイテールをアリストテレスは四元素説を拡張し宇宙の構成を考える際に第五元素として提唱しました。
アイテールは語源上「常に輝き続けるもの」を意味しており、パルメニデスという古代ギリシャの哲学者は、アイテールを「大気の上の炎」「穏やかで希薄、一面に均一に広がるもの」と表現し、濃くて重い大地の物質と対比しました。
個人的に、アイテールのこの表現はオーロラに非常によく似ている印象を受けます。
またピュタゴラス教団はアイテールを「人の死後の魂が辿り着く汚れなき領域」としており、これは我々がイメージする天界に近い気がします。
エンペドクレスは、アイテールとはアーエールが高層の炎と触れて結晶化したものであり、魂はアイテールとアーエールの混合物であるとしました。
いずれにおいてもアイテールとは、地上の死すべきものの世界に対して永続的な世界を指し示しています。
これは雪の女王がカイに「永遠」という言葉を作ることができれば「自由」になれると語った内容に似ている気がします。
アイテールは天体の動きのように変形せずに永遠に回転し続ける性質を持ち、天界を満たしている物質として後世まで広く認知され、物理学や化学における「エーテル」の語源となりました。
このようなことから、フィフス・エレメントは宇宙や魂、天界というテーマを描く題材として用いられることがあります。
また、創作物などでは「愛」をフィフス・エレメントとして扱うこともあり、エレメントの石柱が登場する「フィフス・エレメント」という映画でも、「愛」がフィフス・エレメントとして位置づけられていました。
「愛」は4エレメントを結合させる動的なエネルギーであると同時に「第五元素」として描かれることがあるのです。
これらのことから、エルサ自体が「愛」を内包したフィフス・エレメントとして描かれる可能性はあります。
個人的にはフィフス・エレメントが登場しない場合でも、エルサの中の「愛」が重要な要素にはなるのだろうと考えいます。
そしてどうやら、天界や魂の存在とエルサは深く関わっているようです。
FROZEN2は私が当初考えていたよりも、ずっと大きなテーマを扱う予感がしています。